水戸地方裁判所 昭和37年(ワ)122号 判決
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【判決理由】(被告美吉野商事株式会社の責任について)
被告美吉野商事株式会社が普通貨物自動車の保有者であること、同会社に雇われ自動車運転の業務に従事していた訴外鈴木俊弘が昭和三七年五月一四日午後三時二〇分過頃、同会社所有の普通貨物自動車(茨四せ一、一六五号)を運転して水戸市最大の繁華街の一つである同市泉町商店街を東方水戸駅方面から西方同市向井町広小路方面に向つて貫通するコンクリート舗装の幹線道路を東方から西方に向つて進行し、同市泉町三丁目一、〇四五番地の右被告会社前道路の進行方向左側端に停車し、前部右側(道路中央寄り)のドアを開けて降車しようとしたこと、該個所は道路の中央に布設された被告茨城交通株式会社の運行する電車の軌道敷を除く道路片側の幅員が六メートルで、右の貨物自動車と軌道敷との間には一車線の余裕しか残されておらず、しかも車両の交通が頻繁なため右の一車線分の道路を自動車のみならず原動機自転車や自転車その他の軽車両が混合通行していること、右訴外鈴木は折から右貨物自動車の右後方からその右側を通過しようとして自転車に乗つて進行して来た小沢幸男をして自転車のハンドル左側を右ドアに衝突させ、自転車もろ共道路上に転倒させたことは当事者間に争いがない。そこで、右訴外鈴木の過失の有無につき左に判断することとする。右のように車両の交通が頻繁で諸車が混合通行しており、電車の軌道敷を除く道路片側の幅員が六メートルの道路の左側端に自動車を停車し、降車しようとして運転台右側面(道路中央寄り)のドアを突然開扉すれば、右後方から同車の右側を通過しようと進行して来る自転車があるとき自転車のハンドルを右ドアに衝突させ、その結果自転車もろ共塔乗者を道路上に転倒させ、後続車が同人を轢過する危険があることは通常人と雖もこれを予測するに難くないのであるから、かかる場合自動車の運転者としては(殊に前記貨物自動車の運転席の後方に大型の箱が架装してあつて後部の窓から互に彼我の動静を認識することができないことは成立に争いのない甲第二号証によつて明らかな本件の場合尚更)運転台左側面(歩道側)のドアを開けて降車するか、また若し万一運転台右側面のドアを開けて降車しようとするときは右側面の窓ガラスを下げて首を出すか、或は少くとも右側のバツクミラーを見るかして、右後方の安全を確認した後始めて降車すべき業務上の注意義務を有することは明らかであるところ、この点について右訴外鈴木が注意を怠らなかつたことについては被告美吉野商事株式会社は何ら主張立証せず、かえつて<証拠>によれば、右訴外鈴木俊弘は停車地点の七、八メートル手前から左側方向指示器を出して前記貨物自動車を徐ろに前記道路の左側端に寄せて停車し、自動車の運転中一時かけていた眼鏡をはずしてワイシヤツのポケツトに入れ、右手で右側の開閉レバーを手前に引き、ちよつと肩でドアを押し約二五センチメートル開けたが、ドアを開ける前予め、後方の安全を確認しなかつたものであることが認められるので、右訴外鈴木の過失は免れず、右被告はその余の点の判断をまつまでもなく、自動車の保有者として自動車損害賠償保障法第三条の規定に則り後記被告茨城交通株式会社と共同して与えた損害の賠償の責に任ずべきものといわなければならない。
(被告茨城交通株式会社の責任について)
請求原因二の事実については、被告茨城交通株式会社が本件事故当時同会社自動車運転者訴外三倉の運転した前記大型乗合自動車の時速は二五ないし三〇キロメートルであつた旨主張し、また右自動車の車体左側昇降口附近を自転車もろ共転倒した小沢幸男に衝突させ、同人を左後車輪で轢過したことを否認する以外に当事者間に争いがなく、しかして右衝突および轢過の事実は<証拠>により優にこれを認めることができ、他に前記認定を覆すに足る証拠はない。
ところで、右被告は仮定抗弁として右訴外三倉が右幸男を前記乗合自動車の左後車輪で轢過したとしても、その際右訴外三倉のとつた措置は他に適当な方法がなく、已むを得なかつたものである旨極力抗争するので、この点につき左に判断することとする。
<証拠>によれば、右訴外三倉は前記乗合自動車を運転して水戸駅方面から水戸市大工町方面に向け時速約三〇キロメートルの速度で進行し、前記道路附近に差し掛つた際その前方約一〇メートルの距離の道路左端に前記普通貨物自動車が同市大工町方面に向つて停車しており、また、左前方六、七メートルの距離に小沢幸男の自転車が割合早い速度で道路左端から右貨物自動車の右側へ進出して来るのを発見したが、自車を前記電車の軌道敷石すれすれに寄せて走らせていたので、自車と右貨物自動車との間隔が二メートル位あり危険がないものと即断し、右自転車の更に右側の位置を追尾して同一速度で進行を続け、自車の最前部が前記貨物自動車の最後部に接したころ、右貨物自動車の右側中央部附近を自転車に乗つて走つていた右幸男が前方約四メートルの距離に突然自転車もろ共に転倒するのに気付いたことが認められ、<反証排斥>その他前記認定を覆すに足る証拠はなく、その際右訴外三倉がハンドルを右に切つただけで急停車の措置をとらなかつたことは当事者間に争いがない。なるほど、前記認定のように右乗合自動車の時速が三〇キロメートルのときは右訴外三倉がハンドルを右に切ると同時に急停車の措置をとつたとしても、自転車もろ共転倒した右幸男の轢過を回避できない公算が大きいことは鑑定人黒木団司郎の鑑定の結果の示すとおりである。しかしながら、前記認定のとおり右訴外三倉は前方約六、七メートルの距離に右幸男が自転車に乗つて前記停車中の貨物自動車の右側へ進出するのを発見したのであり、元来自転車は安定性を欠くので、該自動車のドアが突然開扉されたとき同ドアとの接触によつても容易に転倒し、後続車は漫然これを運転するときは転倒した自転車の塔乗車をも轢過する危険があることは通常人と雖もこれを予測するに難くないのであるから、かかる場合、自動車の運転者としては、自転車の行動には特に注意を払い、右幸男が右のとおり転倒した場合でも直ちにハンドル操作と共に急停車の措置をとり、もつて右の危険を回避できるよう自転車との間に適当な間隔を保ちつつ減速徐行すべき業務上の注意義務を有することはいうまでもなく、しかも、右の注意義務を右訴外三倉に期待できない特段の事由は何ら認められない。
なお、前記鑑定の結果に照らせば、右訴外三倉が前記乗合自動車の時速を二五キロメートルに減速しかつ運転技術に熟達して視覚とブレーキ操作のずれが極めて小さく自転車が転倒するのを認めたときに直ちにハンドルを十分右に切ると同時に急制動操作を行なつていたなら右幸男を轢過しないですんだ可能性が強く、また右の時速を二〇キロメートルに減速して右の措置をとつていたなら前記事故は十分避けられたことが認められるのである。
しかるに、右訴外三倉は、右の注意義務に反し、ハンドルを右に切つただけで右の措置をとらなかつたこと前記のとおりであるから、右被告主張の不可抗力の抗弁は理由がなく、これを採用することができない。
果してそうであるなら、右被告もまたその余の点の判断をまつまでもなく、自動車の保有者として自動車損害賠償保障法第三条の規定に則り前記被告吉野商事株式会社と共同して与えた損害の賠償の責に任ずべきものといわなければならない。(林 正行)